ミルキーは、平成22年6月21日の夜に、8歳と6ヶ月の短い生涯を終え、虹の橋を渡っていきました。病気ということが分かってから、わずか2か月でした。

 翌日に行った葬儀は、人間の葬儀よりも立派で、スタッフの皆さんからも最高の心遣いをしていただきました。棺の中に眠るミルキーは、たくさんの花に囲まれ、ぐっすり眠っているように安らかな顔立ちをしていました。

 病魔と闘っている最中、私たちの気持ちを察して親切にしてくださった方たちに、心から感謝しています。いろいろな方たちの思いがけない優しさに支えられました。

 たった2か月間、とはいえ、あっという間に過ぎたというわけではありません。体調に一喜一憂しながら、はらはらして過ごした日々でしたが、大好きな代々木公園で仲良しワンコと遊び、たくさん食べることができた時期もありました。

 4月末、ワクチン接種とフィラリア検査のために、ミルキーを獣医さんに連れていきました。4月になって気づいた症状を伝えたところ、レントゲン検査をすることになったのです。

 あの日、レントゲン室におびえながら入っていったミルキー、女医さんを引きずるように階段から下りてきて私たちを必死に探していたミルキー。

 私たちは、レントゲン写真を見ただけで、その正体を断定できないものの、その大きさが何を意味しているか悟らざるを得ませんでした。

 再びミルキーは私たちから引き離され、血液検査などで、数時間、病院に預けられることになりました。ミルキーを迎えに行く数時間の間にいろいろ調べましたが、行き着く先は悲観的なものだということがわかりました。

 私たちの気持ちは同じでした。リスクが多いだけで気休めにしかならない検査や手術でミルキーを苦しませないことにしたのです。何日残されているかわかりませんでしたが、残された貴重な時間をいっしょに楽しく過ごそうと考えました。

 その日、みんなで公園に行きました。病院の先生からは、いい季節だから、ボール投げはダメだけど、散歩はいいですよと言われていたのです。公園は、思いとは裏腹に、晴れて爽やかな風が吹いていました。

 ミルキーお気に入りの丘の上に立ち、公園を訪れるワンコたちを待ちました。たくさんのワンコたちに伏せてあいさつするミルキー、優しくて、ほんとうにいい子でした。人にほめられれば、いやいやそんなにいい子じゃないですよ、訓練もしてないしなどと答えていましたが、正直なところ、内心では、世界一すばらしい子だと思っていました。

 残された日々を意識しながら、夜に安眠できないミルキーをさすりながらの毎日は、とても苦しいものでした。胸が締めつけられるような感じがして、ひょっとしたはずみに涙が出てしまいそうになることが何回もありました。

 信頼してくれていたのに、こんな辛い病気にさせてしまったという考えが頭をよぎり、身を切られるような思いをしたことは数えきれません。

 そんなとき、「ミルキーは超能力犬だから、私たちの気持ちが分かる。私たちが楽しい気持ちでいないと、ミルキーも悲しくなる。」と言い聞かせ、そして2人で励まし合いました。

 5月の連休前半は対症療法の薬も十分に効かず、やきもきしましたが、連休後半以降から6月初めまでは、ミルキーの生活の質も高く、もしかしたら誕生日を迎えることができるかなと思うほどでした。でも、着実に病気は進行しており、その後は悪くなる一方でした。経過の詳細は省かせていただきますが、お医者さんや看護師さんの皆さんには、とてもよくしてもらいました。人間の医者でもここまでの心遣いはしてもらえないだろうというレベルでした。

 

 さて、細々と運営してきたこのホームページは、皆さんが忘れたころに更新するずぼらなホームページでしたが、訪問していただいた方々に対して、ミルキーに代わり、感謝いたします。ありがとうございました。それにミルキーと今生で縁のあった方たち、ワンコたちに感謝いたします。ミルキーも私たちも、皆さんにお会いして、たくさんのことを学びました。本当にありがとうございます。

 このホームページはミルキーの思い出として、ずっと維持していこうと考えています。たまに訪れていただければ幸いです。私たちはミルキーのことを決して忘れませんが、それとは別に縁があれば再びワンコと暮らしたいと思ってます。ミルキーと暮らすことによって、人間とワンコはいっしょに暮らさなくてはならない生き物なんだとますます確信したからです。

 

 最後に、動物学者は、人間以外の動物に自意識や感情を認めていませんが、ワンコと暮らしている方たちと同様、私たちはワンコにも自意識や感情があることを知っています。照れや恥じらいを感じる繊細な魂を持っているんです。ですから、私たちが勝手に作り上げる第二の犬生,第二の人生が絶対あると信じます。


こんな夢にひたれたら

ミル ねえ、ねえ、パパ、ママ、ただいま! パパ、ママ、早く起きてってば!

M  あら!ミルキーじゃないの、どうしてここにいるの? ミルキーが来たわよ。早く起きてったら!

A  むうん・・。こんな夜中になんだい。あれ、ミルキーどうした?

ミル パパ、ママがかなしんでいたら、いやだから。ちょっと戻って、わたしが幸せだって伝えようと思ったの。

M  今、どこにいるの?

ミル わからないわ。ぐっすり眠ってて、起きたら、きれいな花畑だったの。暑くもなく、寒くもなく、 爽やかな風がいつも吹いているすばらしいところ。パパ、ママによく連 れていってもらった農場のようにどこまでも草原が続いているの。

M  身体の具合はどう?

ミル ちょっと若いころに戻ったみたい。どこも苦しくないわ。かけっこやおしゃべりに疲れたら、草の上でまどろむの。

A  だれとおしゃべりしてるんだい。

ミル わたしが自分の子供のようにかわいがっていたチャーハンくんやパパと昔暮らしていたシェパードのアリさんやチェリーさんたちよ。それからお父さんのサムソンもいっしょにいるの。ほかにもたくさんの人や動物がゆったり暮らしているの。アリさんにパパの子供のころのことを聞いて笑っちゃったわ。

M  楽しそうなところね。

ミル そうそう茶トラのモモちゃんもいるわよ。パパ、ママによろしくって言ってたわ。

M  うれしいわ。私たち、ミルキーにしてあげられなかったことばかり気になってたの。ママは3年間、パパは2年間単身赴任してしまい、さびしい思いをさせてしまったわ。ふだんだって、日中はミルキーに留守番させてしまったし。

ミル ううん。いっしょにいたいけど、仕事があるもの、しかたないわ。もちろんさびしかったけど、怒ってないわ。ちゃんと帰ってきてくれたから、うれしさもひとしおだったし。うれしくて、もう少しでしっぽがちぎれそうだったのよ。

A  でも、海外出張で、ホテルに2週間も預けたことがあったよね。

ミル あのときはわけがわからなかったわ。でも、迎えにきてもらって、ほんとにうれしかった。

A  でも、家に帰ってから、ぼくをなじったじゃないか。

ミル だってぇ、会えて安心したから、怒ったふりしてみたかったのよ。ひとりにされても、怒ったことなんかないわ。そりゃ、さびしかったり、かなしかったりするけど、でも、それってパパ、ママを愛しているからだわ。

M  ミルキーはやさしいわね。ちいさいワンコにも優しくしてあげてたし、ちびっこたちのおかあさん代わりだったわね。ミルキーがちいさなワンコと優しく遊んであげてる姿を見ていると、わたしもうれしかったわ。

A  でも、ワンコにガウっちゃうこともけっこうあったよな。

ミル わたしにも苦手なワンコがいるわ。それに、わたしがあいさつしようとして、礼儀正しく伏せて待っているのに無視するなんて、失礼よ。

M  それはわかるわ。

ミル でも、今いるところではみんな仲良しよ。みんな満ち足りていて、あらそいなんて、ないの。足りないのは、パパとママがいないことだけ。でも、かなしくはないの、いっしょに過ごした楽しい思い出がたくさんあるから。

M  3月にみんなで伊豆に旅行したでしょう。楽しめた?

ミル みんなで行けば、どこだって楽しいけど、あの旅館は広くてよかった。一番よかったのは、3人で並んで眠れたことね。仲居さんたちもとってもやさしくて、わたしのぺろぺろをちゃんと受けてくれたし。あんな立派な旅館に泊まるの初めてだったけど、パパ、ママ無理したでしょ?

M  そんなことはないわ。本当は12月にミルキーの誕生祝いに泊まるつもりだったのに地震で行けなかったから。ミルキーがのびのび過ごせてよかった。

ミル パパ、ママがいつも連れてってくれた草原があるでしょう。あそこに行くのが楽しみだったの。夏は涼しいし、冬はふわふわの白い雪のなかで思いっきり走れたし。今いるところで一つだけ残念なのは冬がないことね。

A  ミルキーといつも一緒に眠っていたのに、具合が悪いことに気づかなかったなんて、うかつだったよ。もっと注意していれば、もっと長くいっしょにいられたのに、ごめんよ。

ミル ううん。こんなに長いあいだ、かわいがってもらったのよ。こんなに幸せなワンコは、そうはいないはず。それにわたしはもうおばあちゃんだったんだもの。心配させたくなくて、ちょっと苦しかったけど、隠してたの。

M  ミルキーはやさしいわね。

ミル 今いるところに白くて長いあごひげをしたおじいさんがいるの。その方が言ってたわ。魂って、人間だけじゃなく、どんな動物にもあるんだって。最初のステージで、ほかのものを愛したり、優しくしたりすることを十分に学ぶために、それぞれの動物ごとに滞在時間が定められているんですって。人間は頭が良すぎるから、そういうことを学ぶには時間がかかりすぎるの。でも、ワンコの生活はシンプルだから、短い時間で学べるの。それで、ワンコは最初のステージを早く駆け抜けることができるそうよ。

A  病気と分かったときに、スクルージのように、自分のろうそくをちぎって、ミルキーのろうそくに足したかったんだ。

ミル そんなこと考えるのはよくないわ。あごひげのおじいさんがわたしに言ったの。お前は、気は短いけど、小さな犬に優しくしたから、ほかの犬よりもちょっとだけ早く来ることができたんだって。照れちゃうわよねえ。だって、わたしは、ただかわいくて、かわいくて、たまらなかっただけなのに。そういうことだから、かなしむことはないの。こちらは本当にいいところなんだから。

A  そうかあ。ぼくらもそこにいけるかなあ。

ミル パパ、ママは、わたしにはうんと優しいけど、まだまだね。もう少し勉強しないとだめよ。でも、きっと3人で暮らせる日がくるから、わたしはずっと待っているわ。

M  わたしがパパによく勉強させるから、きっとだいじょうぶ。そっちに行くまで、ミルキー待っててね。

ミル 楽しみに待ってるわ。そろそろ時間だから、わたし帰る。パパ、ママ、元気で暮らしてね。

M また来てね。

ありがとう、ミルキー。

 心が折れてしまいそうなとき、かわいらしい瞳が、どれほど助けてくれたことでしょう。

 白くてふわっとした、暖かい体が、どれほど疲れを癒してくれたことでしょう。

 美しくて優しい、神様のお使いは、あまりにも早く通り過ぎてゆき、今は文字通り、天使として見守ってくれている。そして,ときどき、すぐ近くまで来てくれることだってできる。

 ミルキーが教えてくれたのは、幸せを感ずる力かもしれない。それは、私たちが、この世で知る必要のあるすべてかもしれない。

 いつも寄り添ってくれて、本当にありがとう。

ミルキーにお便りを送ってね。